刺され損ねた。

童貞の恋人が右手であるように、メンヘラの恋人もまた、右手なのである。

嫌いがする大好き

ぱちぱち 細かい音で目が覚める。今日はあいにくの、雨。小粒のしずくがフロントガラスを叩いていた。線香花火の夢をみたのはきっとこの音のせいだろう。

ワイパーに追いやられたしずくは、半分は窓の隅にたまりLEDの赤を取り込む。その赤さといったら、鮮血のしぶきをも連想させ、なんとなく身体がこわばるのを感じる、かと思えば鮮やかな緑に変わって私を安心させる。一方でたまりそこねたしずくはといえば、風により左下へアーチを描いて流れていくので、暗闇に反射するプラネタリウムをよりきらめかせる。もう半分は車体をすべりながらアスファルトへ落ちていき、コンクリートに夜空を作り、通行人の足元をぬらす。

エンジンと水たまりをはねる音だけが響く落ち着いた繁華街をぬけていく。空だけがせわしない。私は雨のふる日の夜の車内が大好きだ。