刺され損ねた。

童貞の恋人が右手であるように、メンヘラの恋人もまた、右手なのである。

強い赤みと、弱い青み

数ある中でも、歴史の長い障害としては、トゥレットを抱えています。
小中と、恐らくそれが原因でいじめにあったため、私は高校に入り 抑える術を身につけましたがそれもストレスは凄いようで、家に帰ると止まらないチック。親に叱られたって睨まれたって気持ち悪がられたって、泣いたって、おさまることはありません。

今、私は22さい。
今日は仕事場でとうとうチックがでました。

パートさん達の前で、突然目がぎょろぎょろ動き始めて、白目になったりするのね。
抑えようとしたら より目になって そこを1人に、見られた。
その人は好奇を含んだ目をして、しばらく私を見つめていました。私は必死に何でもない素振りで目をかいて眠そうにはたまた具合が悪い風を装い取り繕った。

その人は悪くない。
私だって、目の前の人が突然より目になったら、笑うか不気味に思うかはすると思う。
誰も悪くない。だから茜も気にしない。

彼女のいろは

「煙草は吸わないよ。」

そういった藤沢の吐く息が煙たくなったように、彼女にとっての藤沢の存在はいまだに煙たいらしい。

藤沢さん、元気?

みんなが聞くたび、彼女は泣いているような笑っているような、どちらともつかない声で、
「元気です。」そう応える。不確かな嘘をつく。

認めていないのか、プライドが許せないのか、用意していても言葉は詰まったまま。
彼女は言った。あまりに詰まったままだから、このまま喉の奥のほうで腐ってとれなくなって、息ができず苦しんで死ぬなら本望なのだ。強がって、それでも死ねないのは、やっぱりあたしは弱いのだ。

藤沢の、煙草を吸うという行為は、きっと彼女と決別する意思のあらわれなんだと思う。
いつまでもしがみついて離れない彼女は、見ていて苦しい。

どよめく私が分岐点

こんな私は、こんな私だから、友達がとても少ない。少ないながら、それでも今まで、あまりさみしいと思ったことはなかった。でも今は、さみしさだけを残し、失ったことを失った。失って、しった。友達が少ないのはとてもさみしい。

私は結局、かわいそうな自分が大好きだ。ひとを選び、計算して付き合いそこに私はいない。そんな、ずるくて弱い自分が大好きだ。たまらなく可愛いのだ。
私はひとにきらわれるのが、嫌いだ。みんなに慕われていたい。みんなから慕われる私は私が憧れる私で。
まったく、仕方ないんだから。そんなことを言ってお世話をしていたい。にやけた顔して、いつまでも幸せな愚痴をこぼしていたい。私がいないとできないの?なんて言って、嬉しいくせに、呆れたふりをしていたい。人に、本当は家族にたよりたかったんだ。たよりたい。薬にはたよりたくない。陰で泣いてる自分が嫌いだ。妹と私。常に目上でありたい。私は清く正しい醜い私が大好きだ。
だからこそ、自分のなにもかもが許せなくなる前に死にたい。私にまで嫌われるなんてことになったら、いよいよ目もあてられない。手段はないのだ。

愛がほしいと思う。遠慮せず誘えたり、甘えてくれる、わがままを言ってくれる友達がほしい。欲をいえば家族がほしい。恋人なんていう過程は、あまりに不安定だと思う。他人の心中はわからない。リスクを考えると、時々、私を友達にしたく、私を恋人にしたいとさえ思う。キモい。人間としてまるでだめな私が、やっぱり、愛おしくてたまらないのだ。変わりたくても変われない、そんな自分がやっぱり、いじらしい。

鍋に焦げ付いたとれない君の

わたしはずるい人間だ。昔からそうだった。
なんでも母親にきめられた。そのとおりに動けばほめられた。そうして、あんたは育てやすい子だといわれた。その前後になにがあろうと、その時に喜ばれるじぶんがたいへん誇らしかった。だからわたしは今もそうする。ほめられなくとも、ほめられたい。でも今はそれだけじゃない。だれかにきめられないと、きめてもらわないと、動けない。動きたくないのだ。だってそうやってきめてもらえれば、失敗したときに相手の、ひとのせいにできるのだ。なんでもそうだ、なんでも、ひとのせいにできる確信がないと動けない。大人になるとは、成長とは、そういうことではないのか、ないとしても、わたしはそうだと思っているし、わたしとはそういう人間なんだろう。
わたしはずるい人間だ。昔からそうだった。
でもだからといって、成功をしたとき感謝はしない。「あなたのおかげよ」なんて、口ばっかり。ほんとうは、なべの底のほうでは、じぶんがかわいくってたまらないのだ。
ごめんね、まま。何でもあなたのせいにする。なんでもひとのせいにする。わたしはずるい人間だ。たぶん明日もそうなんだ。

絶対絶望情緒

恋愛は、結婚するためにするものだとわたしはずっと思っていた。その先に別れがあり、結婚が本当はなくとも、告白するということは、受験でいう前期 合格するつもりで、恋愛ならば その先に結婚を描いて、そうして告白するものだとわたしはずっと思っていた。
そりゃ記念受験 ヤリたいだけの人もいるんだろうけれど、彼はたぶんちがう。
彼はちがった。結婚をしないたてまえとして、「わたしの親が幽霊部員ならぬ幽霊信者なこと」「わたしが毒親育ちであること」をあげた。
そして最後に、結婚を、家庭をもつのがこわいのだと、彼はそう言った。生真面目な人だ。
もしかしたら、たてまえも 本当の理由だったのかもしれないけれど、私にはたてまえに聞こえたし、たてまえとして受け入れたかった。

安心感の原料

安心感を得たい。
安心感は、ひとの不幸からなるものだと思う。ひとと比べて、はじめて安心する。「私は、こんなにしあわせだったんだ。」そう、思えるようになる。思ったところで、じぶんの汚さが恥ずかしくなって、そんなだから、また誰かが私と比べて、安心感を得る。私は不幸から抜けだせない。
他のひとが誰かを褒めてるのが気にいらない。みんなに私は褒められたい。いちばんよい子でありたい。そうして、比べなくてもわかるくらい、幸せでありたい。幸せであって、安心したい。他人の不幸でしか安心をはかれないんだから、それはもはや心配だ。
私は安心感を、得たい。

お嬢さん

私とおなじ、フルタイムでパートタイマーとして働く主婦、資産家らしい。驚いた。しかもそれをちっとも自慢しないから、いま聞くまで、私はそれを知らなかった。家にお金があるのに、どうしてパートなんてするんだろう。運動のため?教育のため?
私だったら、家に余裕があるのなら、できる限りは家にいたい。良き妻として、家事をしっかり、やりたい。それでも、金銭に困ることこそ避けたい。それならと、率先してパートに出たい。でも家事や育児をきちんとこなしたいので、半日だけにしたい。つかれた主人を癒すだけの体力を残して、それから睡眠をとる。愛されるなら、そんな妻としてがいい。その人と比べたら、こんな理想は、ただの横暴でしかなくて、くずなんだけどね。両親が共働きで、愛情のない家庭だったから、反対の家庭を築きたいんだ。育ちたかった理想の家庭を築くんだ。私の考えが、あまいのだろうか?なんて。その人と私とじゃあ、なにかが根っからきっと違うんだ。

パート先には、理想のお母さんがたくさんいて、でも誰も私のお母さんではないから、本当に、もう、いじらしい。
いつも明るくて、楽しそうに仕事して、料理が上手。文句をいわず、自慢もせず、誰からも嫌われず、みんなに愛されて、わが子に慕われて、とてもいい奥さん。ずるい。